海老原の論理思考講師Blog

海老原一司Blog -論理思考講師×プロジェクトファシリテーター

営業フレームワークBANT活用6つのコツ

「あなたは商談で適切な営業質問ができていますか?」
「営業ヒアリングの基本の型を持っていますか?」

営業研修講師の海老原です。

筆者がヒアリングの最強営業フレームワークと考えているのが「BANT」です。商談で適切な営業質問をするには型を身につけるのが早道です。シンプルで覚えやすいBANTを営業の基本の型として身につけましょう。

営業ヒアリングの基本の型を持ては瞬時に適切な質問を選択し、商談成功確率を高められます。

※ 過去の筆者作成記事を基に大幅に加筆修正

1.営業フレームワークBANTとは

BANT(バント)とは、Budget,Authority,Needs,Time frameの頭文字をとった略語で、「予算」「決裁権」「ニーズ」「導入時期」の4つの営業質問項目です。BANTは、シンプルかつ汎用的な営業フレームワークです。

  • Budget(BANTのB):今回の商談の予算
  • Authority(BANTのA:決裁権限者、承認のポイント
  • Needs(BANTのN):顧客ニーズ(誰のどんなニーズか?どのくらい強いか?)
  • Timeframe(BANTのT):導入時期、検討時期、承認時期など購買プロセスでポイントとなる時期

BANTは、適切な営業活動をするうえでの必須情報です。BANT情報のうち1つでも漏れがあると商談が不利になります。この機会にBANTをフレームワークとして頭にたたき込みましょう。

1-1.BANTの予算とは

営業フレームワークBANTの1つ目は、Budget=予算です。BANTの予算では次の内容を確認します。

  • どの程度の購買予算金額を想定しているか?
  • 予算確保の目処はあるのか?
  • 予算金額確保目処の確からしさはどの程度か?
BANTの予算
BANTの予算

 

「予算質問くらい営業活動の基本だろう」と思うかもしれません。しかし、BANTの予算は、営業質問スキル次第で得られる情報の質が大きく変わります。

顧客担当者の最初の回答だけで予算額を判断しては、商談の最後に苦労することになります。
例えば、商談の受注直前で突然、大幅な値引きを依頼されたことがある営業担当者は多いでしょう。これは顧客担当者の上司に対する調整ミスです。
営業はBANT情報の「予算確保目処の確からしさ」の確認が弱かったのです。

 

1-2.BANTの決裁権とは

営業フレームワークBANTの2つ目は、Authority=決裁権です。

BANTの決裁権とは、商談での次の状況を確認します。

  • 今回の商談金額で、最終決裁者は誰か?
  • 最終決裁者の判断基準は何か? 普段の基準は?今回は?
  • 承認過程で、方針に影響を与えたり、最終決裁者に上がる前に止める人物はいないか? いるとしたら、どんな影響を与えるか?
BANTの決裁権
BANTの決裁権

 

BANTのAuthorityの解釈としては「決裁権限者」と、顧客企業の特定の人物だけを指す場合もあります。しかし、筆者は、決裁権限者=最終決裁者だけでなく、購買プロセスを把握し購買意思決定の流れ全体像を把握すべきです。

最終決裁者とは

BANTで把握すべきは「最終決裁者」です。最終決裁者は、その名の通り最後の意思決定をする人、この人がOKを出せば購買契約が成立する人です。


BANTヒアリングでは、最終決裁者と顧客担当窓口との役職階層が離れているほど、最終決裁者の意向を掴むことが重要です。大きな商談では「役員決裁になるので、稟議書を作成した顧客担当者が、最終決裁者に会うことは年に数回しかない」ということも珍しくありません。

多くの営業担当者は、商談のクロージング間際で、顧客の購買判断が急に変わって失注になった経験があるでしょう。商談終盤での失注原因の多くは、顧客窓口担当者と最終決裁者のコミュニケーションギャップ、認識のズレにあります。

BANTの最終決裁者の意向は必ず確認すべきです。最終決裁者に直接会うのはなかなか難しい場合も多いでしょう。しかし、直接会わずとも案件に対してどんな見解を持っているか?過去の商談からどんなポイントを重視して意思決定するか?を掴むことは可能です。最終決裁者の意向は複数の経路から多面的に確認しましょう。

暗黙の権限委譲が起きるとき

BANTでは、最終決裁者の意向さえ掴めれば安心な訳ではありません。役職が上がれば多くの稟議承認案件が上がってきます。役員クラスなら毎月数百件の稟議決済をしていることもザラです。

よって、顧客企業内で権限強い方、最終決裁者になるほどチェック仕切れない数の決裁待ち稟議を抱えています。このとき暗黙の権限委譲が起きます。


例えば、「この部下の稟議はいつもポイントを押さえていて任せても問題ない。今回も承認してもよいだろう」という思考です。この場合、BANTで掴むべきは、最終決裁者より実質的に権限委譲された部下の意向です。

BANTの決裁権は、「最終決裁者」と「実質的に権限を持っている人、最終決裁者に最も影響を与える人は誰か?」の2つの把握が重要です。

1-3.BANTのニーズとは

営業フレームワークBANT情報の3つ目は、Needs=顧客ニーズです。今回の商談において、次の内容を把握します。

  • 何に対するニーズか?
  • 誰にとってのニーズか?
  • ニーズは確かにあるか?
  • ニーズは強いか?
BANTのニーズ(Needs)
BANTのニーズ(Needs)

①何に対するニーズか?

顧客ニーズらしきものを見つけたら、まずは営業質問で明確化・具体化します。顧客は意外とニーズをしっかり言語化できないことも多いです。

②誰にとってのニーズか?

次に営業質問で誰にとってのニーズかを確認します。同じ物事でも、誰の立場に立つかで課題の種類、大きさが変わってきます。

例えば、「担当者個人ニーズがわかったが、組織ニーズと合致していなかった」というのはよくある失敗です。BtoB営業では、組織の経済合理的メリットが必要です。

③ニーズは確かにあるか?

3つ目は営業質問で「ニーズの確からしさ」を確認します。顧客担当者が「ニーズがある」といえば必ずあるように思えます。しかし、実際には当初言われたニーズがないこともよく起きます。
顧客担当者のいうニーズは顧客企業の課題仮説です。仮説ですから外れることもあります。仮説の根拠がどこまで強いかの確認が必要です。

④ニーズは強いか?

最後はニーズの強さです。言い換えれば、「顧客がどれだけ困っているか?」です。
ニーズが明確で確実にあるのに商談が立ち消えになった。これはニーズが弱かった、顧客がそれほど困っていなかったのです。

なお、BtoB営業では、基本的にニーズの強さは金額に言い換えられるべきです。基本的には、金額換算した効果が高いほどニーズが強いと言って良いでしょう。

1-4.BANTの導入時期とは

営業フレームワークBANT情報の4つ目は、Timeframe=導入時期です。

BANTのタイムフレームでは、今回の商談で次の内容を把握します。

  • 導入時期はいつか?
  • 導入時期から逆算して商談スタートから商談決定全体のスケジュールはどうなるか?
  • 全体スケジュールのうち主要なマイルストーン(クリアしないと次に進めない中間地点)は何か?
  • それぞれのマイルストーンはいつか?
  • マイルストーンでキーとなる顧客メンバーは誰か?
  • マイルストーンをクリアするために自社はどんなスケジュールで動くべきか?
BANTの導入時期(Timeframe)
BANTの導入時期(Timeframe)

時間軸は顧客の購買検討プロセスで把握する

Timeframeは導入時期と訳しました。しかし、BANTのTimeframeを日本語の「導入時期」とだけ捉えていては不十分です。

日本語で「導入時期」はある1点の時期を示します。例えば9月導入予定などです。一方、BANTのTimeframeは時間の幅があります。商談がスタートしてから商談終了までの時間の流れがどのように進むのか。これがタイムフレームです。

BANTのTimeframeは、顧客購買検討プロセスを幅を持った期間・流れとしてします。

例えば、次のようにプロセスごとの概算時期を把握します。

  1. 商品の基本情報収集:9月いっぱい
  2. 導入商品の要件決定:10月
  3. 導入商品の比較検討:11月
  4. テスト運用:12月前半
  5. 見積・稟議:12月後半

 購買検討プロセスを把握し、そのプロセスに沿ったアクションをとるのがBtoB営業の基本です。

2.営業フレームワークBANT活用6つのコツ

営業フレームワークBANT活用の6つのコツをまとめます。

2-1.営業フレームワークBANTのコツ①:予算を聴く順序に注意

営業フレームワークBANTのコツ。1つ目は、Budget(予算)ヒアリングの順番です。

概算予算は最初に把握

BANTの予算額は、商談で最初につかむべきです。予算額は営業ヒアリングの基本中の基本ともいえますが、意外としっかり確認されない項目です。
BANT情報で重要なのは早い時点から予算概算を確認すること。概算とは10万円か、100万円か、1000万円か、という金額の桁感です。

BANT情報の予算額が変われば営業質問が変わる

BANT情報の予算額が大きく変われば、連動して「決裁権限の段階」「ニーズの幅」「スケジュール感」などBANTの他の項目も変わってきます。
予算100万円のBANTヒアリングと、予算1000万円のANTヒアリングは別物と考えるべきです。

「Budget」が変われば「Authority、Needs、Timeframe」も変わる

BANT】 【金額小】 金額中】 金額大】
Budget(予算) 10万円 100万円 1000万円
Authority(権限) 課長決裁 部長決裁 役員決裁
Needs(必要性) 課長の課題 部の課題 会社の課題
Timeframe(時期) 1ヶ月 3ヶ月 6ヶ月
算額でBANT情報ヒアリング内容が変わる例

2-2.営業フレームワークBANTのコツ②:予算額の強い根拠を探す

営業フレームワークBANTのコツ。2つ目は、Budget(予算)の根拠です。
BANT情報の予算額が確認できたら、その根拠の強さを見極めます。

例えば、顧客の言った金額で提案をしたのに、結局予算が取れずに商談が頓挫したり、最後に大幅な値引きを求めらたりしたことがないでしょうか。
多くの場合営業担当者がBANT情報の算額の根拠の強さの確認が弱いことが原因です。

BANT情報の予算額根拠で注意すべき1つ目は、顧客窓口担当者が言っているだけ、という場合です。
上司の決済権限者の意向を確認せず、期待だけで予算額を言っている窓口担当者も多いものです。上司は、どう思っているのか? 過去に同等の内容で予算が降りたときはあるのか?などの確認が必要です。

BANT情報の予算額根拠で注意すべき2つ目は、そもそも予算をとっていない場合です。予算額を確認したときに、「見積もりをみて考えます」といったはぐらかすような答えがあったら要注意です。単なる情報収集の場合も多いです。
このような、まだ商談になっていない情報収集ステータスの顧客に対して、膨大な時間をかけ提案書を作ってしまう営業をよくみかけます。

BANT情報で、しっかりした案件の見極めができれば、営業活動の無駄もありません。

2-3.営業フレームワークBANTのコツ③:決裁権は集合体で考える

営業フレームワークBANTのコツ。3つ目は、Authority(権限)の捉え方です。
BtoBとBtoCでは購買意思決定が異なります。最大の違いは購買意思決定を組織(集合体)としてするか、個人でするか、です。

BANTの決裁権は、顧客企業を人の意思決定関与者の集合体(ユニット)と捉え関係者を洗い出しましょう。

DMU:BANTの決裁権整理に使えるマーケティングフレームワーク

BANTの決裁権を洗い出すのに使えるフレームワークがDMU(Decision Making Unit)です。DMUをより深く知りたい方は次の記事を参照ください。

製造業工場のDMUマップ例
製造業工場のDMUマップ例

▶▶記事リンク:『DMUとは:法人顧客の意思決定関与者を見える化する』

稟議書承認フローを把握する

BANTの決裁権限を理解することは、「稟議書の承認フローと承認権限を把握すること」とほぼイコールと思って良いでしょう。
BANTヒアリングで、最終決裁権限者が誰かだけに、注力する営業パーソンも多いです。しかし、特に大きな商談では、顧客意思決定メカニズム全体を理解するようにしましょう。最終決定は意思決定の集合体です。

2-4.営業フレームワークBANTのコツ④:まず稟議起案者を押さえる

営業フレームワークBANTのコツ。4つ目は、Authority(権限)のキーマンの考え方です。
BANT情報で最初に知りたいのが、「稟議起案者」です。より具体的には、「顧客が社内稟議を通すための稟議書を書く主体は誰か?」です。
BANT情報の決裁権で、最終決裁権限者の把握は重要です。しかし、稟議起案者を探すのが先決です。

商談成立とは、顧客企業の最終決裁者が稟議を承認することです。これを起案者からみると、顧客の稟議起案者が、最終承認に必要十分な材料を揃えることです。
営業担当者の仕事は、起案者に「これなら稟議が通る」と思える情報を提供すること。BANT情報の起案者を把握してはじめて、営業が始まります。

BANTの決裁権でわかりにくい「稟議起案者」

BANTの決裁権で、稟議起案者を最初に把握すべきと書きました。窓口担当者が稟議起案者でない場合も多いのです。
例えば、中堅社員のAさんが稟議起案者。しかし、Aさんの後輩のBさんが情報収集のため1人でコンタクトしてきた。この商談では、稟議起案者のAさんに会うこと、最低でもAさんの意向把握が必要です。

後輩のBさんは商談に対して特段の自分の意思を持たずに単にAさんの手足として動いているだけかもしれません。このとき、Bさんに聞いたニーズだけを元に提案すると失敗する可能性が高いです。

2-5.営業フレームワークBANTのコツ⑤:決裁権ヒアリングテクニック

BANTの決裁権=意思決定関与者は、顧客側からあえて情報を伝えてくることはほとんどありません。営業側から仕掛けてヒアリングする必要があります。

BANT情報の引き出し方は、面談の流れに沿って「次はどうなりますか?」という聞き方がスムースです。

「この次のステップはどうなりますか?」
「部長に報告して部長判断ですね」
「●●部の部長は、××さんでしたね?」
「そうです」
「他に事前にお話を伺ったりするする方はいらっしゃらないのですか?」
「そうですね。技術部の▲▲課長は決定前に確認したがると思います。」

2-6.営業フレームワークBANTのコツ⑥:ニーズとウォンツを区別する

ニーズと混同しやすい言葉がウォンツです。ニーズとウォンツを区別するためのコツは、目的と手段の関係で考えることです。

例えば、顧客が「営業支援システムを導入したい」といったとします。これはニーズ、ウォンツのどちらでしょうか。営業支援システムは手段、ウォンツです。それに対し、「営業活動を効率的に行いたい」「売上を上げたい」などが目的、ニーズになります。

ニーズとウォンツ

ニーズとウォンツの区別が重要な理由

BANTヒアリングにおいて、なぜニーズとウォンツの区別が重要なのでしょうか。それは顧客の発言は常にウォンツ寄りだからです。手段であるウォンツは具体的で目に見えやすいもの。一方、目的あるニーズは抽象的なものです。

ヒトは抽象的な事柄より具体的なことの方がずっと話しやすいものです。よって、顧客が話す内容は自然とウォンツ、手段がほとんどになります。よって、営業担当者がニーズを把握するためには、「そのウォンツでどんな目的を実現したいか?」を確認します。

(文責:プロジェクトファシリテーターロジカルシンキング講師 海老原一司)

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